光景

腐りかけたりんごがしゅわしゅわ鳴きながら溶けていく。氷の上に映る姿を見ていた。赤いフリルのスカートや丁寧に編まれた靴下のぬくもり。地下に現れた教会からは光が見えなかったのにどうして人は世界を信じることができたのだろう。凍りついた石段を注意深く降りてゆく足どり。よく冷やされた葡萄酒が胃袋で騒ぎはじめるので恐ろしくなる。青ざめた恐怖は美しさに通じていて、人は血と肉と骨でできている。いつになったら戻れるのだろう。何もかもが度の強すぎる眼鏡をかけたようにぼやけて歪んで、世界に触れるとき私はいつも頭が痛くなる。