光採り

扉のすきまから ひとすじの日光


 声を出してはいけませんか?
 駄目だよ。物音ひとつ立てたら駄目だよ。


見習いの初老の太った男と、大人ぶった口調で喋るベテランらしき少年が、私のベッドの脇にぼんやり現れて、光を採ってゆきました。細い日光だから、ピンセットを用いて、少しずつ地道にフラスコに溜めてゆくのです。見習いは、ピンセットの扱いに慣れていないようで、幾度か少年に睨まれていました。


 気づかれてやしませんかね?
 大丈夫さ、この子は今日はずっと昼寝してるんだ。


フラスコに溜まった、不思議な色の光。きらきらしています。プリズムの実験をしたときによく似ている光です。まさに、虹色なのです。ほんものの、虹の色なのです。


 もっと、私にもよく見せてください。


声を出したかったのに、喉にひっかかって出てきませんでした。そんなに光を集めてどうするのだろう、とも尋ねかったのに。私が寝床から動けず焦っているうちに、ふたりの光採りは、ぼわん、と姿を消してしまいました。
きっと、こういうふうに病床の傍に現れるのでしょう。暗い部屋のかび臭い布団で寝ていることしかできない、光に恵まれない子どもの家を訪れるのでしょう。そして、せっせと集めてきた虹色の光を、このうえなく美しい光を、その子の上に振り撒くのでしょう。見習いは、少年に何度も睨まれながら。
光採りたちは、いつのまにか現れ、あっというまにいなくなってしまいました。