したたり落ちる

トマトの汁がしたたり落ちて
シーツを汚した。
鮮やかに
自身の生を主張して。


 したたり落ちる。
逆立ちになるヨガをしながら考える。
  したたり落ちる。
布団に入り、腕と足に温かいと言い聞かせながら考える。
   したたり落ちる。


血液。
鮮やかな赤。
赤黒さ。
その生々しさ。
目を覆いたくなる、生命ということ。


    したたり落ちる。


まぐろを捌く男たちのことを考える。
コーヒー豆を挽く男のことを考える。
私を置いていった人のことを考える。


     したたり落ちる。


自分の腕はもう二度と切らないであろうから。
救急車。サイレン。悲鳴。血。
あのとき自分だけが平気だと思ったのだから。


      したたり落ちる。


血は嫌いです。血は嫌いです。血は嫌いです。
生きている生々しさ。血は嫌いです。
私は死んでいない。血は嫌いです。
血は嫌いです。血は嫌いです。血は嫌いです。


       したたり落ちる。


赤ん坊のちいささ。まるさ。見えないのに動く眼球。
母親になるということ。子宮。子宮は要らない。
血は嫌いです。血は嫌いです。血は嫌いです。


        したたり落ちる。


じっと待つ。生きているのでじっと待つ。
見つからないように、とても静かに呼吸をしてじっと待つ。
生きているので。生きているので。私は死ななかった。
生きているので。子宮もなくならない。何も失われない。
生命の輝きはギラギラしていて目を眩ませる。
血は嫌いです。血は嫌いです。血は嫌いです。