破片

痛みと共に押し出される血塊が子宮の破片が少し前までは憎らしくいとましく忌み嫌われるべき存在であったが今腹痛と共存している私の身体はスプリングのよく効いたベッドの隅で静かに飛び跳ね破片は痛みと共にきらきらと落ちていく。それは死しか無かった人生に女としての生活に子宮を摘出してしまいたかった日々にある日突然光が射し込んで生まれ変わったということもう一度生き直せるということ新しい命さえも授かれるということ。バッハのマニフィカトで聖母マリアは「私のようなはしために」と歌い私はそのオブリガートオーボエ・ダモーレを吹いた。


 Ecke, ecke!
 見よ、見よ!
 語り継がれることになるだろう。


音楽の作り方に迷いマリアの気持ちに迷い母に妊娠したときの気持ちを訊くために電話した夜を思い出す。耳の奥でいつまでも清いアリアが繰り返される。


 かみさま、
 わたしにきせきを
 ありがとうございます。
 いきてこられたことを
 ありがとうございます。


ガラスの破片は身体を刺しながらきらきらと落下し真夜中の闇に痛みを加える。しかし女であるという喜びが生きているという歓びが光となってすべてを照らし、破片は乱反射して真夜中を舞う。