螺旋のような上昇

昔習っていたピアノの先生のことば


「上達は、螺旋階段みたいなものなのよ」


十年経った今でも、母との電話で、恋人との会話で、思い出すのです。


螺旋階段を築きあげる。ぼんやりとした色彩、ふわふわする不安な触感の段たち。ジャックと豆みたいに空をつきぬけ雲の上まで、しっかりと大地に根をはって、老木のように謙虚に。


 わたしは いま どこらへんに いるのかしらん ?


風が強いです。あたりは霧がかかっていて何も見えません。麓で誰かが大声で私を呼んでいる。善いものに見せかけた邪悪。私は戻ってはならない。下ってはならない。ひたすら上る、上る、上る。自分のいた場所を何度も確認しながら、空まで。