旅立ちの前に

「遠くまで旅する人たちにあふれる幸せを祈るよ」


歌声を耳元でボリュームを上げて病院へ向かった。
祖父を送るときは、動かせなくなった指を一本一本、指先と爪をやさしく押してもみほぐした。気持ちいいと伝えてくれたのを覚えている。
祖母を暮らしたときは、大丈夫だよ、と何度も伝えた。今生きていることも、その先に待ち構えていることも、怖くはない。大丈夫だよ。
そうして何年もが過ぎて、私は祖母の指先をもみほぐし、耳元で、大丈夫だよ、大丈夫だよ、とくり返した。
がんばって、なんて励ましはもう言わなくてもいい。きっと欲しいのはほんの少しのぬくもりや、安心なのだ。


「僕らの住むこの世界では太陽がいつものぼり」


明日を少しだけ良い日にすること。未来の楽しい想像をたくさんすること。


大丈夫だよ、
大丈夫だよ。


祈ろう。