ひとりの

ひとりのにんげんは ほんとうによわいものだ


昨日まで隣で寝息を立てていた人がいないという、ただそれだけのことで。


精神科医は「あなたはひとりぐらしには向いていないからシェアをしなさい」と言った。卒業式の前だったか、後だったのか。白い部屋古ぼけたソファー。


いま、
数メートル離れたところで
十年来の友人が眠っているということ
あたたかくしあわせな夢を見ているだろう、ということ


小学校の生活ノートに「あなたは『独り』にこだわりすぎです」と書かれたことを、ふと思い出す。なじめなかったことやいじめられたこと。小学生から、私は「独り」という字を書きなぐっていたのだった。


空がだんだん白くなって
そろそろ電車が走り出すころ


わたしは いま ひとりではない
ということ


生きてこられた
ああ 生きてこられた。