さみしがりや

ながいあいだ なにをしていても ひとりぼっちで だれかといても ひとりぼっちで すぐさみしがっていた さみしいきもちが すこしだけへったのは 音楽にとりくめるから 日々のくらしを保ちたいから あなたのそばでくらしたいから ひとりがふたりになれるとした…

井戸の話

待って! 離して! 私の恋人をどうか 連れていかないで! その歌に 自然と重なっていた後ろ姿 黒い空港の夜 かわいた公園の枯れ葉を 私は未だに無邪気に踏みしめるのだし いま すずめが余りにも平和に鳴く 男はしあわせそうにいびきをかく 私が追っていたも…

息の音

まだ半年しか一緒にいないというのに ずいぶんと長く一緒にいるせいで 私を呼ぶときの息の音まで すっかりわかるようになってしまった 髪の毛をかきむしって 心配そうな顔をしたあとに よわよわしい息の音で (どうしてなのか) あなたはわたしをよぶのです

ひかり

ひさしぶりに 深く深く眠ったので 目がさめたとき 隣にいる人が誰かわからなかった。 この人は誰なのだろう。 この人は私のおとうとだろうか。 冬の朝の 薄い色をした青空から 淡いみどりのカーテンをぬけて さしこむ しろいひかりに 眉間を寄せて 軽くくち…

それを得る

甘えられる理由があるということ 精神病というとても便利なカード どもってもまばたきが多くても外に出られなくても みんな優しくしてくれる シャンパングラスを磨くように接してくれる とても便利なカードだ。 だが、 それを得るために どれだけ苦しんだか …

ひかり かなしみ 遠い日のわたくし 鋭角に折れ曲がり積み重なる道のり 世界そして物理の法則 無限に続くくるしみ 鏡 無限に続くくるしみ 世界そして物理の法則 鋭角に折れ曲がり積み重なる道のり 遠い日のわたくし かなしみ ひかり

傲慢なこと

もしかしたら 私ならば あの人を救えるんじゃないかと 思っていました。 悪いことはもうやめる あたたかい家庭をつくりたい そういう横顔がちらりと見えたので、 あの人の危険さも腹黒さも 長い付き合いでわかっていたのに どうして、 そんな傲慢なことを思…

動けない

たつ気力もなければ 向こう側で会いたい人がいるわけでもないし そもそも そんな世界は信じていない ただ 未来がぼやけて 薄暗い夕闇のようで こごえてすくんで歩けなくなる 膝を抱えて座っている こんなことをしてる場合じゃないのに わかっているのに 動け…

いびき

年をとったなあ、と思う。 男のいびきが、憎らしくも少しだけ愛らしい。 空がもうすぐ白くなって車たちが動き出すのに、 ここにはあたたかい時間がゆっくりと流れている。 このまま時を止めるには 命を絶つのが最適ではないか という私の狂気 カーテン越しの…

天使の糸電話

白い小さな天使たちが、私の手元にふわりと集まって、携帯電話に不思議な魔法をかけてくれた。クリスタルのハンドベルみたいな、奇妙な形の電話機。 一緒にいましょう ずっと一緒にいましょう わたあめのような白い雲から紡いできた糸を持って、天使たちは走…

くるくる

くるくるまわる はげしくまわる 風見鶏の羽根がもげる つよいかぜ わたしは くるった おんなです ひとりにしないで ひとりにしないで ひとりにしないで くるくるまわる ゆっくりまわる 力いっぱい小麦を挽くように 骨を潰してゆきましょう ごりごり砕いてゆ…

北風

強い北風が、窓ガラスをどおんどおんと叩いては走り去ってゆきます。おうちでひとりぼっちの坊やは指をくわえて、ときどき白い息を窓に吹きかけてみるのでした。街はまるで灰色の塵が積もったようです。「ほうら、ごらん、あそこにママがいるのだよ。」北風…

他人

幸せになれる保証書を得るために、事細かな履歴書が必要なのだったら、私は、書類を揃えることもできない。 サイレンの中で にぎりしめた手 花火と愚かな言葉 優しさへの裏切り 明るくなりかけた部屋の、ざらざらとした壁に細い手首を添えると、心の奥底が白…

女のこと

女は、 形而上の思考は一切できなかった。 地を這うように長年生きてきたので、 若くしてすっかり腰が曲がってしまった。 繕いつくした服を脱ぐと、 女の背骨はくっきり浮き出て 大きな爬虫類のようだった。 土。 ミミズやナメクジや いつまでも白く残る蜆の…

お誕生日に

昼も夜も いちにちじゅう あなたのことばかり お祝いしていたい 宇宙ステーションに銀色のチューブで繋がれて宇宙遊泳しているように(もしくは遠い記憶の中の胎内でぷかぷかと恍惚の呼吸をしているように) 私たちは一緒に生きてきた 私たちは一緒に生きる …

かじかむ

何よりも心がかじかむ朝 布団から出られない私は静かに息を吐く 窓の外はきっと白く濁っているでしょう かなしいのです いろいろな種類のかなしみが襲ってくる ずっとずっとかなしいのです そんな言葉しか綴れなかった数年前より 今は少しは笑うことが増えま…

ささえ

お互いがお互いを支えているという これ以上にない善いつながりは 誘惑に負けることがなく 堅く築かれて倒れることがない。 一時の感情で流されるものか 私たちは家族になれる。

いたみ

過去のあやまちを赦してください 弱い私をどうか赦してください そして あの中では仕方なかったのだと 笑い流してください いたみがむねをさす しんぞうがはりやまのように ぷちん。 誰とも比較しないのだ 過去とも、何事とも、比べないのだ とにかく 今はと…

隣にいられない 週末の夜更けにも 携帯電話の向こうの あたたかい声。 遠くの寒い町 私の知らない町に 男は立っている 冷たく、しかしおだやかな風が吹いている 一緒に歩いてゆける 一緒に生きてゆける さまざまな困難を乗り越えてゆける わたしのかたいかた…

螺旋のような上昇

昔習っていたピアノの先生のことば 「上達は、螺旋階段みたいなものなのよ」 十年経った今でも、母との電話で、恋人との会話で、思い出すのです。 螺旋階段を築きあげる。ぼんやりとした色彩、ふわふわする不安な触感の段たち。ジャックと豆みたいに空をつき…

ささえあい

ささえあって 生きていきたい そう、思うのです。 「よりかからず」でも「共依存」でもなく、ひとりの人間であるお互いを尊重しながら、尊敬しながら、苦手分野をサポートしていく。そんなふうになりたいのです。 そういうことが 結局幸せだったなあ と語る…

死、眠り

生きる価値のない者は死を選ぶべきである、よって私は何も食べるべきではなく日に日に弱り消えてゆくべきである 窓から光は射さず横たわっていた。手首と足首がやせ細り、動けずにいた。 生きるべきではない 生きるべきではない 生きるべきではない 反芻 朦…

気泡

掌と掌のあいだの 卵をくるむような やさしい空間に とじこめた気泡が 炭酸水のように はじけて消えてゆくまた掌たちの 生みだす熱が 際限なく私たちの つくりだす体温が 泡をぱちぱちと飛ばす 一緒に生きるということとは。 今、一緒に生きているということ…

くらし

ただ もたれあい つぶしあってゆく のではなくて おたがいの よいところを できることを のばしてくふうして そうやって くらしてゆけばいい だからわたしは しあわせに くらすことができる。 いきることができる。

うちゅうのはて

よわよわしい ひかりと よわよわしい ひかりが たがいを てらしあい あたためあっている とおい とおい うちゅうのはて むくどりの翼のように 卵をやさしくあたためるように 載せられる腕の重み とおい とおい うちゅうのはてに せかいをつくった あなたはい…

小さな寝台

この 小さな寝台で 私たちが しずかに腕を絡めるとき、 かすれた色の山々に黄砂を含んだあつい風が吹く。 私たちが しずかに手を繋ぐとき、 指の鼓動は水滴に変わり関節という関節からみどりが芽吹き出す。 この 小さな寝台で 私たちが まるく背を向け合って…

ひかり、よろこび

あなたがいないとぼくはまるでだめになってしまいます。 目に見えるものたちが 鮮やかな色をまとい その生命力を誇示せんとばかりに 光さえも…! あなたがいないとぼくはまるでだめになってしまいます。 生きている歓喜 ふれあえるやすらぎ 変わらぬ愛、とい…

あさのそら

あおじろい そらのすきまに まいぼつ してしまうきょうふ めいめつ ひかり つかみとる わたし かいめつ きぼう うしなわずともよい あなたがいる

人間の距離

ふと 気づくと 心の距離が離れている 私たちは人間どうしだから 繋がっている糸は細くて脆いのだ 永遠に変わらぬ愛などあるのか それはやはり あなたに頼るしかないのだ すべてをお委せするしかないのだ あいします あいしてください どうか

さまよい

前を見て歩いているのだ ゆっくり歩けているのだ と、 思っていたのに どうしてなのか さまよい歩いていました。 森の中は暗くて光の一筋も見えずどうどうめぐりを繰り返す。木々のざわめき、鳥たちの歌声、獣のひそやかなたくらみ。 生と死のあいだを 未だ …